有田式とは
有田秀穂先生は東京都出身の脳生理学者で、
東邦大学医学部統合生理学教授です。
セロトニン研究の第一人者であり、
『エチカの鏡』など多数の
TV番組の出演で知られています。
著書『脳からストレスを消す技術』は
22万部を超えるベストセラーとなりました。
ドーパミンは学習脳です。
ノルアドレナリンは仕事脳です。
セロトニンは共感脳です。
セロトニンは腸に90%、血液に8%、脳に2%あります。
セロトニンは睡眠と覚醒を
コントロールする脳内物質です。
太陽からの光刺激が網膜から縫線核に
伝達されるとセロトニンの合成がスタートします。
そして、セロトニンからのインパルスが脳全体に
行き渡って脳をクールな覚醒状態にします。
セロトニンの合成と分泌は日の出とともに盛んになり
午後から夜にかけては低下します。
そしてノンレム睡眠時には全く分泌されなくなります。
セロトニンの合成は照度2500ルクス以上の
光を5分以上浴びる事でスタートします。
2500ルクスというのは朝の太陽光の照度です。
日中の屋外は10000ルクス程度です。
夕方の薄暗い時間帯は1000ルクス程度です。
セロトニン神経が強い人はストレスに
直面しても平常心を保つ事ができます。
セロトニン神経が弱い人はストレスに
直面すると緊張反応が引き起こされます。
セロトニン神経の細胞体は脳幹の縫線核群に分布しています。
脳幹は脊髄動物が持っている器官で、
呼吸、循環、消化、歩行、咀嚼など、
生命活動に関わる運動を調節する役割を担っています。
原始的で重要な器官にセロトニン神経があるという事は、
セロトニンは生命維持に欠かせない脳内物質と言えます。
大脳皮質には、新しく発達した大脳新皮質と、
古くから発達した大脳辺縁系があります。
大脳新皮質は言語や概念を司っています。
大脳辺縁系は記憶や情動を司っています。
簡単に言うと、
大脳新皮質=理性、
大脳辺縁系=本能です。
大脳新皮質は下等生物においては小さく、
高等生物では大きくなる傾向にあります。
高等生物の頂点に位置する人間は
大脳新皮質に支配され過ぎてしまい、
「こうあるべき」
「こうでなければならない」
という常識に縛られ過ぎているのです。
セロトニン神経を強くすると、
大脳新皮質の働きを
適度に抑制する事ができます。
言語や概念を司る大脳新皮質は、
心配事や悩み事を抱えている脳でもあります。
大脳新皮質を抑制すると、
その間だけ心配事や悩み事から解放されます。
幸福物質であるセロトニンは、
気分を安定させ、鬱な気分を晴らします。
セロトニンは腸内で神経伝達物質として働く他に、
満腹中枢を刺激するため、
食欲を抑制する働きもあります。
セロトニンが不足すると、
鬱になり、食欲が増進し、
過食・偏食に陥りやすくなります。
鬱病はセロトニンの不足によって
起こるという事が分かっており、
鬱病で自殺したと思われる人たちの
脳脊髄液を調べたところ、
セロトニンの分解物質の量が
極端に少ない事が確認されています。
セロトニンが不足する主な要因は三つあります。
@太陽光不足
A運動不足
Bトリプトファン不足
太陽の光を必要としているのは
光合成をする植物だけではありません。
セロトニン神経を刺激するために
最も欠かせないのが太陽の光です。
太陽の光が光信号となって網膜に入り、
直接セロトニン神経を刺激します。
朝起きたら、まずカーテンを開けて
部屋の中に太陽の光を取り込みましょう。
15〜30分を目安に日光浴すると、
セロトニンを活性化させる事ができます。
セロトニン神経は実は鍛える事ができます。
ウォーキング、ジョギング、サイクリング、
スロースクワット、階段の上がり下り、
ラジオ体操、首回し運動、素振り練習、
水泳、深呼吸、音読、読経、歌唱など、
毎日、30分だけでも繰り返し
リズミカルに体を動かす事です。
毎日、リズミカルに体を動かしていると、
セロトニン神経の構造を変える事ができるのです。
続けていると、セロトニン神経が活性化し、
沢山分泌される状態を維持できるようになります。
セロトニンは、座禅、ヨガ、気功などで腹式呼吸を行い、
瞑想をする事によって増える事が確認されています。
深呼吸によってセロトニンは活性化しますし、
脳に充分な酸素を送り込む効果があります。
セロトニンを活性化させる深呼吸法として
有田秀穂先生は腹筋呼吸法を提唱しておられます。
腹筋呼吸法
- 下腹に手を当てる。
- 下腹に意識を集中する。
- 息をフッフッフーと吐き切る。
- 腹筋を緩めてスッと鼻から息を吸う。
長時間デスクワークをしていると
セロトニンは低下してしまうので
適切な方法でセロトニンを
活性化させる必要があります。
昼休みに外に出て青空の下を
少し歩くだけでセロトニンは活性化し、
午後の仕事効率のアップに役立ちます。
職場から離れた飲食店まで歩いて行き、
外食ランチをする事によって
「日光を浴びる」
「リズム運動する」
「咀嚼する」
という3つが満たされるので
セロトニンが活性化されます。
女性ホルモンのエストロゲンはセロトニンの
合成を促進すると考えられています。
エストロゲンが増えるとセロトニンも増え、
エストロゲンが減るとセロトニンも
減るという相関関係にあります。
因みに、女性の脳内セロトニンは
男性の半分くらいしかないそうです。
人と人とが近い距離で触れ合う事による
緊張緩和の状態をグルーミングと言います。
このグルーミングによってセロトニン神経が
活性化する事が分かっています。
すべてのものは重力によって
地表に引っ張られています。
この重力とは逆の方向へ体を
動かす筋肉を「抗重力筋」と呼びます。
抗重力筋の大きな役割は、
立っている姿勢を保つ事、
背筋を伸ばして姿勢をよくする事です。
手や足を上げたりする動作も
抗重力筋の役割です。
もし、顎に抗重力筋がなかったら、
口は開いたままになってしまいます。
セロトニンは、この抗重力筋にも
働きかけています。
セロトニン神経が弱いと、
口が開いたままになったり、
猫背になったりします。
顔の表情にも抗重力筋が働いています。
笑った時に口角が上がったり、
頬が上がったりするのは、
抗重力筋による働きです。
セロトニン神経が弱いと、
顔の表情が少なくなり、
目尻、頬、口角が下がってきます。
つまり、老けた印象の顔になってしまうのです。
笑顔に似た表情を強制的に作ると
感情もポジティヴになります。
これはドイツのマンハイム大学の
ステッペル博士の研究をはじめ、
心理学的にも証明されています。
私たちが起きている時は
脳からベータ波が出ています。
20〜30分間、坐禅で腹筋呼吸を行うと
アルファ波が現れるようになります。
セロトニン神経が活性化された時にも
アルファ波が現れるようになります。
アルファ波には、遅いアルファ波と
速いアルファ波の二種類があります。
リラックス状態になると、
遅いアルファ波が現れます。
坐禅で腹筋呼吸を行うと、
速いアルファ波が現れます。
セロトニン神経の五つの働き
- 睡眠から覚醒へのシフトを行う。
- アルファー2という特別な脳波が出現する。
- 自律神経を適度なレヴェルに保つ。
- 痛みを制御する。
- 全身の抗重力筋が活性化する。
セロトニン前駆物質をサプリメントで摂ると、
セロトニン症候群が起こる場合が
あるので注意が必要です。
セロトニンは、トリプトファンという
必須アミノ酸を原料として作られます。
必須アミノ酸は体内で合成できないので、
食事から摂取する必要があります。
トリプトファンは様々な食品の中に含まれています。
体内に取り込まれたトリプトファンは、
脳内に運ばれて、ヴィタミンB6、ナイアシン、
マグネシウムと共にセロトニンを合成します。
トリプトファンを多く含む食べ物
- 大豆
- 納豆
- 豆腐
- 味噌
- 醤油
- 胡麻
- 鰹節
- カシューナッツ
- ピーナッツ
- 白子干し
- 若布
- 牛乳
- ヨーグルト
- プロセスチーズ
- 卵黄
- アヴォカド
- バナナ
ヴィタミンB6を多く含む食べ物
- 鰯
- 鰹
- 鯖
- 鯛
- 鰊
- 鮪
- 秋刀魚
- 豚もも肉
- 牛レバー
- 大豆
- 小麦胚芽
- 玄米
- 大蒜
- 唐辛子
- 生姜
- バナナ
トリプトファン、ヴィタミンB6、ブドウ糖の
三種類をすべて含んでいる食べ物はバナナです。
セロトニンを効率よく増やすのに、
バナナは非常に理想的な食べ物だと言えます。
有田秀穂先生ご自身は毎日バナナを食べているそうです。
肉に含まれている動物性蛋白質は、
トリプトファンの脳内への取り込みを悪くします。
禅寺の精進料理では食材に肉や魚を使いませんが、
これはセロトニン神経を鍛えるという意味で理に適っています。
セロトニンは夜になると
メラトニンというホルモンに変化します。
セロトニンが「幸福ホルモン」であるのに対し、
メラトニンは「睡眠ホルモン」と呼ばれています。
タイミング物質であるメラトニンは
昼と夜のタイミングを計り、生活リズムを整えます。
メラトニンは暗い夜だけ放出され、
メラトニンが分泌される事で眠くなり、
熟睡できるのです。